Labour Rights and Globalization

は適当ではない」「国民に広く平等に官職を公開し最も能力・適正の面から優 れた者を公正に任用することが求められる」などとして、公募要件を撤廃し ようとしていません。
しかし、「期間業務職員の公募にかかる全労働の見解」でも明らかになって いるように、公募によらずに専門性の高い非常勤職員の雇用を更新すること は、成績主義や平等取扱いの原則には反しませんし、逆に道理にかなってい ると言えます。円滑な公務運営や職員の健康にまでも悪影響を及ぼしている 期間業務職員の機械的な公募は廃止すべきです。
ひきつづき、国で働く非正規労働者の雇用の安定と労働条件改善にむけて、 一層とりくみを強化していくことが求められています。

イタリアと日本の労働運動を
マ7レクス研究者と考える
マルチェロ・ムスト
ヨーク大学准教授。1976年生まれ。著書に『アナザーマルクス』『ラ ストマルクス』他。
聞き手九後健治国公労連書記長

ムスト お招きいただいてありがとうございます。私は自分の著作をアカデ ミック以外の人たちにも広げていけるように世界各国で刊行しています。特 に社会運動とか労働運動に対しても訴えかけていくようなことが重要で、本 日、国公労連に来られたことも私にとってすごく重要です。
そのように考える理由は2つあって、1つは政治的な考えとして国際的に やっていくことが重要であるということです。グローバルな問題は国際的に 協力していかないと解決できないからです。私が最新刊の『アナザー・マル クス』で一番、力を入れて書いたのは、マルクスが第1インターナショナル の創始者であったということに関してなんです。
もう1つは個人的な理由で、私の母は労働組合のリーダーをやっていて、5 歳とか子どものときからこういった会議室で運動に関わっていたんです。み んな大人が会議している横で絵を描いていたりしたんですけど(笑)、ときに は工場労働者のひげ面でガタイのいい人が自分を膝の上に乗せて「資本家が 何とか…」みたいな話をしていました。そういった環境で育って、大きくな ったら自分もそういったことをやりたいと思っていました。

ー日本ではあまり子どもを連れて会議に来る方は少ないので、ぼくらからすると それ自体が貴重な経験だと思いますね。
厶スト 子どもを家に置いておくことができなくて連れてきたということで もあって、それは女性が活動する難しさでもありますね。
一そうですね。そのイタリアの労働組合、労働運動はどのような状況でしょうか。
ムスト イタリアは3つ大きなナショナル・センターがあって1つは共産党 系の労働組合で500万人以上の構成員がいます。2つ目がキリスト教民主系で 300万人。もう1つが2つの間に位置する中道左派的な労働組合で150万人。 イタリアは他の国に比べて労働組合員がとても多い国ですが、この20年間の 間にヨーロッパの中のどこの国でもそうですけど、どんどん組合員が減って きている状況です。
加えて労働組合が労働者からの信頼を失ってきており、それは労働組合が いま中道左派的なポジションにいるからです。中道左派が政府と近いところ におり、政府がヨーロッパの中ではかなりひどいネオリベ政策をやっている のに労働組合も賛同してしまっています。10年前の経済危機の後からヨー ロ ッパが支配階級のものになっていって、労働者階級の暮らしをよくしていく ものではなくなっていきました。ポピュリスト政党とか、反政府主義みたい なところが出てきて、左派も右派もやっていることが同じになってきていま す。それで労働組合に加入するということが自分たちのためにならないとか、 どうでもいいこととなってしまった。
今日ではマルクスの時代と違ってもっと難しくなっていて、例えば本国に ある工場を閉鎖しても、もっと賃金の安い地域に工場をつくって、より低い 賃金で物が生産できるようになっています。これがいまカール・マルクスに 戻ることの重要性で、マルクスは150年以上前にこういった状況についても書 いているからです。マルクスに戻るということは労働者の主体性に立ち戻る ということです。
その上でヨーロッパないし世界的に労働組合にとっての困難が2つありま

す。1つは労働者階級の状態が大きな工場にみんなが集まるような状況では なくなってきていたり、契約の種類が複雑化してバラバラな契約の下で働い ているため、労働者を組織したり動員したりすることが難しくなってきてい ます。
もう1つの問題は右派政党の政策が移民を使って労働者を分断させようと しているということです。人種差別主義的な政策をとる政党は、労働者の賃 金が安いのは移民や難民がやってきているからだといいますが、実際は移民 が押し寄せてきているということ自体はそんなに大きな問題ではなく、労働 者と困窮者を戦わせるようになってきているということが問題で、これも労 働組合が移民労働者を一緒に組織することを難しくしている要因です。
また、ここ十数年かは労働組合が政党と強い結びつきを持っており、労働 組合にとってすごくマイナスなことになっています。結びついている政党が 政権を取っても、マーストリヒト条約がネオリベラルな政策を推進させるよ うになっているため、そうした政策をとる政権に労働組合が従う状況となり、 労働組合の信頼の喪失につながってしまったのです。マルクスはそれとはつ きりと違うものをつくり出そうとしていました。マルクスは労働組合という のは完全に政党から切り離されてなければならないと書いています。労働組 合は労働者階級とか、人間の生活状態を改善することに役立たなければいけ ないわけです。政府が中道左派であろうと右派であろうと、労働組合は完全 にそこから切り離されていなければいけない。これがこの間の教訓であると 思います。
公務員はヨーロッパでもものすごい攻撃にさらされていますね。先ほどの 移民と同じ形で、労働者同士が敵対させられています。私企業の労働者と公 的企業や公務員を対立させるわけです。ネオリベ側のプロパガンダとしては、 公務員労働者は怠惰、怠慢であると攻撃してきます。「公務員たちは国家の仕 事があるからとてもラッキーだね」「公務員労働者のせいで国全体が機能しな くなっているんだ」と。たしかに過去を見てみると、実際に公務員労働者は いい額の給料をもらっていたこともあります。しかし2008年の経済危機以降、

多くのヨーロッパの政府が財政危機に陥るようになり、インフラで物価は上 昇しているのに公務員労働者に対してより多くの賃金を払わないようにして います。
ーそれは聞けば聞くほど全く日本も同じだと思います。民間労働者というよりも 国民全体から公務員バッシングが強いですし、給料もそうですが、人件費とい う意味で人を減らせという声がけっこうあるんですね。その結果、いわゆる非 正規の公務員、それは1年契約が基本ですけど、1年契約の公務員が相当増え ていたりですとか、仕事そのものを民間に委託をするというのが増えています。 行政サービスの質も落ちていると思います。
ムスト 公共交通機関の労働者も同じ状況にありますね。民営化されて値段 が上がって、お金をちゃんと使わないのでものすごいトラブル、最大級の卜 ラブルが起きることもある。
—ヨーロッパでは水道など民営化したものをまた再公営化をするという話も聞き ますが。
ムスト 確かに民営化に対する批判はありますが、いったん民営化をして、そ れを実際に公共セクターに戻してくるのは難しいです。その一方で銀行は破 綻したら国有化する。「資本家というのは民営化を進めたがるけれども、債務 はどんどん公営化したがる」というマルクスのおもしろい警句があります。
水は少し違う感じで、最後の公共のものというところもあり、みんなが強 く抵抗して公共セクターにとどめようとしていました。これはヨーロッパだ けではなくて南アメリカでも同じ状況があると思います。ボリビアのコチャ バンバでは水の民営化に対してものすごく強い反対闘争が起きました。これ が革命的・改革的な運動の始まりで、エボ・モラレスを大統領にするのにつ ながっていきました。水の民営化に対する闘争というのが地域のコミュニテ イを守っていくことにもつながっていっています。
問題は2つあって、1つはヨーロッパのマジョリティーが右派になってき ています。もう1つは、経済が完全に政治を圧倒している状況が広がってい ます。社会政策の方針も変えられない。なぜかと言うと、ELFから経済政策の 方針はこうしろと言われているからで、、公営化や新しいサービスをつくるに

もお金が要りますが、そのお金がそもそも確保されておらず、ずっとできな
い状況が続いています。
一そうした世界の状況に対して、日本の労働組合には何が求められていると思い ますか。
ムスト 正確な状況はわからないので何とも言えないんですけど、もし方針
や資料が英語で読めるのであれば、今度ぜひ見たいです。
いま労働組合にできることというのは、世界中で広がっている労働者同士 の競争と労働者間の分断状況を引っくり返していくようなことをどんどん示 していくことです。
欧米の資本家は「おまえらは日本人みたいに働け」と言うんです(笑)。も し日本の状況が変われば、私は「君たちは日本人みたいに連帯するのがいい んだ」と言うことができるようになります。ただ、これはすぐに実現するの が難しいのはわかっています。
ー課題は幾つかあって、1つはさっきの労働者同士の競争という部分ですね。こ れが日本でもけっこう顕著になってきているという議論もあって、例えば公務 員の世界でも人事評価制度というのが入っています。そういう状況に加えて正 規と非正規という階層もあって、なかなか連帯をしようというふうになりにく い。まずはそこからだとは思います。
もう1つは、日本の労働組合は企業内労働組合なんです。だから社会的な問 題というのがなかなか共有化できないし、自分たちが抱えている問題を社会的 な問題にしにくいというのもあると思います。そこをどう打ち破っていくかが 課題かなというふうに思います。
私たちはさきの国会のときに「働き方改革」に対抗するために「ヨーロッパ のように人間らしく働こう」ということを宣伝していたんですけど(笑)、実 際はネオリベの攻撃でヨーロッパの人たちの働き方も、日本みたいに過労死が おきたりしているのでしょうか。
ムスト ヨーロッパでもどんどん悪くなっている状況です。でも世界的に見
ればまだいいほうです。
一番重要なのは、会社ごとに分断されていない労働組合があって、昔の労 働者たちがやっていたことを振り返ることです。同じことをやれというので はなく、そこからアイデアをもらって生き返らせるという意味で。

私の本に関して言っておきたいのは、資本主義について書かれていること が重要である、社会を変えていくために理論というのが重要であるというこ とです。理論は他にもたくさんあるのですが、多くがかなり小さい狭いとこ ろしか見てなくて、全体を見るようなものがほぼない。これだけ高度な技術 を持つようになったグローバル化社会の中で、小さい問題だけを見ていても 問題を解決することはできません。
これからもいろいろと連絡を取り合って、国際的な連帯をするために一緒 に仕事をしましょう。
ーこちらこそ貴重なお話をお聞かせいただいてありがとうございます。改めて厶 ストさんの問題意識や現状認識はわれわれと近いと感じました。ご著書でもま た勉強もさせていただきたいなと思います。ありがとうございました。

 

Published in:

Kokko

Pub date:

1 May 2019

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